No. 137
発行 2010年7月
分類 REN
著者 近棟健二

連載:『子育て父さんのひとりごと』 第2回

リチャード・ギアになれたかな

種智院大学(社会福祉士)  近棟 健二


いいとこ取りのイクメン

先月号の事務局だよりで"筋金入りのイクメン"と紹介されましたが、それを見た妻に「ぷっ」と笑われてしまいました。よく妻には「いいとこ取りやなあ」と言われますので"筋金入り"というのがおかしかったのかもしれません。確かに妻と比べて子どもたちと接する時間が圧倒的に少なく、妻の大変さから考えると"いいとこ取りのイクメン(笑)"ぐらいがちょうどいいのかなと思います。  
もちろん"いいとこ取り"ばかりではダメですが、これまでの子育てを考えると子どもとの楽しいこと、うれしいことを手がかりに子育てに積極的に関わってこれた気がします。
最近も長女との楽しくて、うれしいことがありましたので今回はそのことを書きたいと思います。

ほんまにすんの?

小学2年生の長女はピアノを習っています。小学校に入ってから習い始め、この1年は学校のある日も休みの日も関係なくほぼ毎日、練習してきました。時には妻の厳しい指導を受けて泣きながら弾いていることも...そんな長女が初めての発表会に挑戦することになりました。
「1年間の成果を見ることができるのが楽しみだなあ」と思って発表会の案内をふと見ると、ソロ演奏とは別に親や兄弟姉妹との連弾演奏もあるとのこと。「なんかおもしろそうやな」という軽い気持ちで連弾をすることにしました。というと「ピアノ弾けるんや」と思われそうですが、ピアノを習ったり、弾いた経験はなく、楽譜もまったく読めません。大学生の頃、『プリティー・ウーマン』でリチャード・ギアがピアノを弾くのを見て「ピアノが出来たらかっこいいなあ。もてるやろうなあ」と思ったぐらいです。  
 そんな状態ですので、最初、妻は「ほんまにすんの?」と心配していました。肝心の長女も「お母さんとしたい」とつれない反応です。しかし、「お母さんは妹の世話で忙しいから無理ちゃうか」とちょっと強引な説得をしたらなんとか一緒にやってくれることになりました。

もう一緒に練習せえへんで!

5月の発表会を目指して練習を始めたのは1月末のことです。曲はベートーベンの『喜びのうた』。まずは右手から始めました。主旋律は長女が担当するので、僕が弾くのは片手で二音ずつしか出さず、繰り返しも多いパートです。毎日、練習することは出来ませんでしたが、10日ほどで半分までを両手で弾くことが出来ました。  後半部分は前半より指の動かし方が難しいところもありましたが、2月に初めてピアノの先生に見てもらった時には、「思ったより出来てますね」と誉めてもらいました。レッスンから帰って長女と一緒に練習すると何度目かにぴったりと合い、とても気持ちが良かったです。長女と抱き合って喜びました。その後も練習を続けて4月の初めには先生の前でも間違わずに弾けるようになりました。
  しかし、4月の下旬には本番が近づき緊張感が増してきたからなのか先生との練習でも間違いが増えてしまいました。家での練習でも間違うと「もう一緒に練習せえへんで!」と怒られてしまいました。猛練習をして間違いは少なくなりましたが、本番の一週間前のリハーサルではかなり緊張して指が少し震えるほどでした。

親ばかながら感動

そして、いよいよ本番当日。開演前、白のドレスとカチューシャが良く似合っていたので「一番かわいいなあ」と言った僕に「自分の子どもがかわいいのは当たり前やん」とクールに返すぐらい長女はいつも通りの様子。6割方が埋まっていてる400席ほどの広い会場に適度な緊張感がただよう中、まずはソロの演奏がスタートしました。年齢順での登場なので比較的早く長女の出番が回ってきました。先ほどとは違いさすがに緊張しているようでこちらにも伝わってきました。となりに座るばあばは手を合わせて祈っています。『スケーターズワルツ』を弾く長女は順調なスタートから中盤も問題なし。途中、一度、間違ったけど最後まで止まることなく終了。一年でここまでできるようになるとは親ばかながら感動しました。後で聞くと妻は泣きそうになったそうです。
   

終わったときには大きくうなずいて

ソロ演奏の部が終了してからついに僕の出番がやってきました。舞台袖に移動すると緊張感が高まります。そして、いよいよ入場。家族の視線を感じながら礼。慎重に鍵盤の位置を確認し、長女からの合図を聞いてスタートしました。途中から指が震えそうになりながらも課題の後半部分もなんとか乗り越え、最後の4小節は余裕を持って弾くことができました。終わった時には安心して大きくうなずいてしまいました。全くの初心者が娘と連弾するというちょっと大胆なチャレンジはうまくいき、ほんとに良い経験になりました。  「また、来年も一緒にやろうなあ」と言うと「妹が4歳になるまでな」とのこと。「なんで?」と尋ねると「妹が大きくなったらお母さんとするから」とつれないお言葉。あと3回は一緒にできそうなので次の説得材料を考えます。
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