No. 136
発行 2010年5月
分類
著者 原田正文

【国の動向と本会の方向性】

「仏・英・スウェーデン並に、家族支援の支出を増額する」という国の方針は良い

本会代表(精神科医) 原田 正文


今年は特に不順な天候が続きましたが、みなさんにはお変わりありませんか。宮崎県での口蹄疫の流行のため、何十万頭という牛が処分されるというニュースに、心を痛めています。これ以上広がらないことを祈るばかりです。
さて、本誌1月号に、本会が15年目を迎えるに当たって、これまでを振り返り、今後の目標として、以下の6点を具体的に掲げました。

 ① NPの6冊目の親テキスト『Feelings』の翻訳・出版
 ② 『NPセッション計画事例集』の完成
 ③ 0歳児の親子プログラムの開発と実践
 ④ フォーラムの開催の再開
 ⑤ 「子育て支援NPOかんさい連絡会」の企画
 ⑥ NPの効果測定

①の『Feelings』は、1月に『子どもの感情、親の感情』というタイトルで、単行本サイズ(四六版、95ページ)の冊子として、NP-Japanから翻訳出版されました。②については、今、急ピッチで進められています。③については、本誌4-5ページに紹介しています。④~⑥についても今年度は具体的に進めていくつもりです。これらについて書く前に、国の動向について書きます。

日本は、家族支援の支出が少ない

さる5月21・22日に、本会とも共催事業を行ったことのある国立女性教育会館(ヌエック)主催で、「家庭教育・次世代育成のための指導者養成セミナー」が行われました。私は、21日の午後の事例検討「ワーク・ライフ・バランス時代の子育て支援活動」というセッションでの講義とコメンテーターという役割で出席したのですが、午前中にあった関係省庁説明「家庭教育・次世代育成の施策の最新動向」というセッションが聞きたくて、朝から参加しました。ヌエックですので、まず文部科学省、続いて内閣府、厚生労働省という順に、それぞれの担当官が30分ずつ説明をされました。 全体を通して、気を引いたのは「日本が子ども・子育て・家族等には、お金をあまり使って来なかったこと」を明確に述べたことです。図1は、「各国の家族関係社会支出の対GDP比の比較(2005年)」を示していますが、この図はこの会議で内閣府及び厚生労働省の資料にともに入っていました。そして、少なくともフランス、イギリス、スウェーデン並に、家族関係の社会支出を増やすことを明言されました。日本の高齢者対策の予算に対し、家族関係の予算が10分の1であることも示されました。国として、子ども・家族関係の予算を増やす方向を明確に打ち出したことは、今後の動向を見定める必要があるが、歓迎すべき新しい方向と言えます。

「子ども・子育て新システム」に注目

もうひとつ、私が注目したのは、「子ども・子育て新システム」の構想です。表1に、本年4月27日の「子ども・子育て新システム検討会議」が出した基本方針を示します。この会議は、少子化担当大臣など内閣府匿名担当大臣たちで共同議長をし、構成員は関係各大臣です。表1の基本方向に沿って、平成23年度の通常国会に法案を提出し、平成25年度試行を目指しています。民主党政権がもうひとつ安定していないので、何とも言えないところはありますが、国として、本気になって、対策を打とうという姿勢は評価できると思いました。
 

子育て価値の見直しを!

以前にも書きましたが、現代日本の20代30代の人たちは、切実には子どもを必要とはしていません。だから、少子化が進むのです。しかし、次の世代が育っていない国は、今いくら豊かでも数十年後には廃れます。子どもを必要としているのは、社会の方です。だから、子育て家庭に対しては、国として社会として、その対価を支払うべきです。今までもそうでしたが、これからの時代はさらに人材が大切な時代になります。30年60年後には、無限の価値を生み出すのが、子どもです。育児は夫婦の責任に任されたままですが、「社会のために育児をしてくれている」というように、育児・子育てを見直すべきです。当然、子育てをしていることそのものに対価を支払うべきです。民主党の子ども手当ては、説明不足もあり、批判されていますが、方向としては間違いではないと思います。

「0歳児プログラムの開発」と連動して

最近、関東に行くと、なぜか元気が出ます。'90年代は、子育て支援活動は、どちらかというと関西や九州などで活発でした。しかし、最近は関東が活発です。何か、エネルギーをもらいます。それは、本会がめざしていた状況に触れるからだと思います。
最近、もうひとつ私を勇気づけてくれるのは、「0歳児の親子プログラムの開発」に関する多くのみなさんの期待です。子育て支援をしている専門職からも、地域でNPO法人を立ち上げて活動している母親たちからも、大きな期待が寄せられています。そのような期待に応えて、本誌4-5ページに紹介していますように、名前も「親子のきずなづくり"赤ちゃんがきた!"プログラム」と決まり、着々と開発が進んでいます。
「赤ちゃんがきた!」プログラムは、NPから派生して生まれたものですが、NPとは異なります。あまりにも期待が大きいので、このプログラムを軸に、上記⑤の「子育て支援NPOかんさい連絡会」で意図していたことが、実現するのではないか、と想像したりしています。子育て支援では、行政の役割も大事ですが、やはり当事者組織が主になって活発に活動できる環境を作らないと、効果が上がりません。今は、つどいの広場事業で細々と活動を続けている当事者団体が、「赤ちゃんがきた!」プログラムを行政から委託され、実施することで、財政的な基盤をしっかりさせ、活発に活動できる状況を作り出したいと考えています。
「赤ちゃんがきた!」プログラムの公開の前には、いくつかの場所で試行実施をします。その際には、このプログラムの効果測定をする予定です。上記⑥にかかげた「NPの効果測定」と合わせて、実施したいと考えています。その延長線上に、④にかかげた「フォーラムの開催の再開」という目標の実現もあるのではないか、と考えています。

 (大阪人間科学大学教授)
(C)NPO法人 こころの子育てインターねっと関西